架空の偶像に自分を見てる

gekritzel2007-09-01

シェイクスピアソナタ』を観てきました。
久々の舞台鑑賞です。
会場はパルコ劇場。
出演は松本幸四郎高橋克実緒川たまき松本紀保
長谷川博己豊原功補岩松了伊藤蘭
なかなか豪勢な顔触れでした。
作・演出も、岩松了さんの手によるものです。
書けて、演出できて、演じられるなんて、
なんて才能をもったひとなんでしょう!


ストーリーは、『シェイクスピアの四大悲劇を演じる俳優を襲う五番目の悲劇とは?』
シェイクスピアを演じる小劇団があって、
毎年、とある酒造会社の主催で、酒造会社の地元で公演をしているのです。
この酒造会社は、小劇団のスポンサーなんですね。
それというのも、酒造会社の長女が看板女優をしていたから。
というわけで、今年も公演をしに、その地に一座がやってきます。
4日間で、シェイクスピアの四大悲劇を公演するのです。
ところが今年は、いつもと様子が違っていて、
看板女優だった長女は亡くなっており、
夫だった座長(松本幸四郎)は、
なんと次席看板女優のみすず(緒川たまき)と再婚していたのでした。
みすずがヒロインを演じ、公演は行われるものの、
スポンサーであり。長女の親である酒造会社の会長は、不在。
待てども待てども観に来てはくれないのです。
表では出張となっていますが、どうやら姫路にいる会長の弟を訪ねているようなのです。
このあたりが、リア王風に仕上げるための伏線になっています。
実は会長は、座長の再婚を認めていない?と、劇団員達は不安になります。
それというのも、会長から援助を受けなければ大打撃をうけるし、
酒造会社はその実権問題でなにやらもめているらしい。
周りの目を気にしすぎて、自暴自棄になってしまうみすず。
そんなみすずの心の隙間につけいる、長女の妹の夫(高橋克実)。
長女の妹ゆめこ(伊藤蘭)は、過去の流産が原因で、夫との夫婦仲はけして良くなく、
若手役者のふたづき(豊原功補)と不倫中。
その不倫は夫にばれ、劇団員にもばれます。
そして、ふたづきに好意を持っている女優あきら(松本紀保)。
そのあきらの姉と近々結婚予定で、雑用もこなす役者やまだ(岩松了)。
座長の息子(長谷川博己)。
それ以外に、その会社に勤めている「きみちゃん」が、名前だけ登場します。
それぞれの人間がそれぞれの心配を抱えて、公演は続くのです。
人物の心理をきめ細かく描いているのですが
それに煽られたのか、どうも胸が苦しくて、いまいちのめりこめませんでした。


ちょっとしたしぐさや行動が、
相手にとってはこれほどに傷つく要因となるのか、と
愕然としました。
自分ひとりで抱えていると思っている苛立ちとか不安感とかが、
実は周りのひとに増幅して影響を与えているという怖さ。
シェイクスピアの四大悲劇に絡めてたからかもしれませんが、
人間の、悲しい、淋しい、いちばん汚い部分をまざまざと見せつけられたように思いました。
シェイクスピアの話を知らないひとから観たら、また違う感想を抱くのだろうけれど。


どの役者さんにも見せ場があって、それがとっても良かったです。
豊原功補さんは、背が高くて声も通って、やっぱり格好いい!
長谷川博己さんは、途中でキレる場面があるのですが、
その「動」と、それまでの「静」の差が激しくて
見ごたえのある役者さんでした。
尾川たまきさんは、色が白くて細くて華奢で、すらっとしていて、本当にきれいなひと。
自暴自棄になってしまう場面では、狂ってしまうオフィーリアと、ぴったり重なりました。
高橋克実さんは、テレビでもおなじみですが、一見人が良さそうなんだけれど
本当は何を考えているのか分からない(腹黒い)感じがしっくりきていました。
最初にカツラをいじるシーンがあるのだけど、
あれにはちょっと笑ってしまいました。
そして、全体的にこのお芝居は、印象的な、詩的なセリフがとても多かったです。
日常会話では絶対そんなこと言わないんだけど、
それがハマってしまうのは、やはり脚本がいいせいなんでしょうか。


内容的には、いろいろ考えさせられるお芝居でした。
「面白かった!」んだけど、それだけでは終わらない、みたいな・・・。
岩松了さんの脚本は初めて観るので、
また機会があれば、違うものも観てみたいと思います。