空が風を呼び 時が大地を重ねる 生きること 死ぬこと

gekritzel2008-01-27

今年初めての舞台鑑賞。
場所はBunkamuraシアターコクーン
NODA・MAP第13回公演『キル』です。


モンゴルの英雄ジンギスカンの侵略と制圧の歴史を、
ファッション業界の攻防に見立てた物語に仕上げた、この物語。


羊の国(モンゴル)の主人公テムジンは、ファッション戦争に敗れた父親の遺志を受け継ぎ、
祖先の名を冠したブランド「蒼き狼」による世界制覇の野望を抱いて
羊毛の服で大草原のファッション界を制していきます。
そして、絹の国(中国)から来たモデルのシルクと恋をし、
やがて息子バンリが誕生します。
しかし、実はバンリは、シルクの不倫の子だったのです。
自分自身も、不義の子であったテムジンは、
今度は自分が息子にとって代わられる恐怖に襲われるようになってしまいます。
しかし、その後も外征を続け、ついに世界制覇の夢が達成するかに見えた時、
西の羊(西洋)の地から、「蒼い狼」という偽ブランドが出現し、
蒼き狼」の行く手を阻むのです。
息子と「蒼い狼」を潰すために、バンリを送り込みますが、バンリも消息を絶ち、
新たなデザインさえも、なぜか「蒼い狼」に盗まれ、追い詰められるテムジン。
そして、ついに最終対決。
テムジンは、「蒼き狼」と「蒼い狼」の関係に思い至り、
「蒼い狼」が自分の父親であること、
征服欲を断念しない限り、その関係が終わらないことに気づきます。
テムジンは自らのブランドを捨て去り(「kill」)(「切る」)、
自分が「着る」服は、自分が生「きる」羊の国の草原に広がる青空だと思い至ります。
そして大草原の青空の下、一人のテムジンが眠るように死に、
もう一人のテムジンが誕生するのでした。




世界を征服することは、
世界中の人が「蒼き狼」の制服を着ること。


蒼き狼」が人を斬ると、
人は「蒼き狼」を着る。


「キル」は、さらに「KILL」であり
「生きる」でもあるのです。




タイトルの「キル」が、「着る」「切る」「kill」「生きる」と掛けてあるように
全編を通じて、言葉遊びの妙に、感嘆しました。
頭をフル回転させて台詞を噛み砕くのが、精一杯…。
けれど、設定にもストーリーにも無理がなくて、すんなりとシンプルな仕上がりだと思いました。
ストレートなぶん、どっぷりと世界観に浸れて良かったです。
また、ファッションというテーマに沿って、舞台には布地や幕がふんだんに使われていて、
役者さんたちの、何種類もの、色とりどりの衣装も華やかで贅沢でした。
役者さんたちの演技も良かった!
舞台初挑戦だという妻夫木聡も、青年らしい一途なテムジン役にぴったりはまっていたし
広末涼子も可愛らしかったです。
わたしが夢中になったのは、テムジンの腹心・結髪を演じていた勝村政信
ほとんど舞台に出ずっぱりだったのだけれど、彼の存在が安定してあったおかげで
舞台の流れがスムーズにいっていたような気がします。
引き締めたり、緩めたり、彼の呼吸が観客の呼吸のような。
格好よかった!


さすがの『野田地図』でした。