待つことも待たせることも 二人には関係がなくて

gekritzel2007-10-21

吉祥寺シアター
劇団ペンギンプルペイルパイルズの公演『ゆらめき』を
観てきました。

ペンギンプルペイルパイルズ、初体験です。
大きな劇場で華々しく行われる舞台もいいけれど、
こういう小さな劇場で、俳優と観客の距離が物凄く近い、
まさにライブ感たっぷりの雰囲気も、やっぱり大好き。


倉持裕氏の脚本は、そして、やっぱりどこかミステリアス。
古着屋を営む夫と、元スタイリストの妻。
妻は仕事に復帰しようと、ひさしぶりに撮影現場に顔を出すが
そこで年下のスタッフに「付き合ってる人、いますか?」と口説かれる。
妻がそれに対し「付き合ってるひとはいないけど、夫がいるわ」と答えると、
若いスタッフはあっさり引き下がる。
妻が夫にそのことを告げると、夫はその男に会いたい、と言い出す。
なぜなら、夫には、一方的に想いを寄せてきた女を「ちゃんと振る」ことができずに
痛い目に遭った過去があったのだった。
男がちゃんと納得したのか不安になった夫は、男に会いたい、と言い出し、
男は友人を連れて、夫婦とその友人が待つ家へとやってくる・・・。


表面的には、単なる夫婦間の、ささいなもめごとのように見えるが
その中にはさまざまな確執や嫉妬、トラウマなどの感情の捩じれが隠れている。
夫は妻に対し、「信じたいけど信じきれない」不信感を持ち、
妻は夫に対し、言いようのない不満をもっている。
また、夫の友人は、自分のうまくいかない夫婦関係から、夫婦に嫉妬し、
近所の独身女性は、結婚できない苛立ちから夫婦に嫉妬の目を向ける。
それらをすべて押し隠して、
『うまくいっている日常の暮らし』を演出しようとするものの
それは突然飛び込んできた男とその友人によって、壊れていることがあらわにされてゆく。
緻密な構成と、台詞。
倉持裕氏は、こういうものが、やっぱり「上手い」と思いました。


妻の台詞が
「わたしは、ただ鎌倉へゆきたかっただけなのかもしれません」と
突然始まるのでびっくりしました。
「大宮から湘南新宿ラインで一時間半」だの
「僕の家は浦和橋のたもと」だの
新都心までドライブしてそこから高速に乗った」だの
親しみ深い地名がどさっと出てきて、それも面白かった(笑)
「なぜ鎌倉名物は鳩サブレなのでしょうか」という台詞とともに
巨大な鳩サブレが登場し、
「でもわたしが好きなのはヨックモックのシガール」
「鎌倉には他にもいろいろあるのに」
で、登場した鳩サブレの眼が赤くピカーッと光ってまた笑い、
巨大シガールも登場してさらに笑い・・・で
シリアスなのに、まるでコメディかのようなつくりかたに感心しました。
面白かった! です。
台詞が凝っているので、それがちょっと難しく感じられるかもしれないけれど
演劇の舞台に慣れていない彼も、面白かった! と言ってくれたし・・・。



舞台の後は、吉祥寺の雑貨屋さんをめぐって、お散歩。
ヨーロッパの文房具をみたり、アンティーク雑貨をみたり
吉祥寺は大学時代からよく来た街なので
道に迷うこともあまりなく、いたって好きな街。
よく行った「レモンドロップ」というケーキ屋さんでお茶をして、
たっぷりある思い出を、ひとつひとつ数えていたら
なんだか、あの頃に帰ったような気がしました。
大学時代に、彼が目の前にいたはずはないのに、
ずっと一緒に過ごしてきたかのような幸福な錯覚で、胸がいっぱいです。